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先天性疾患とは、持って産まれてきた身体的な特徴や機能の違いです。全体の3~5%の赤ちゃんは何らかの異常を抱えて生まれてくるとされています。そのうち、生命にかかわったり日常生活に支障をきたしたりするような異常は1~2%の赤ちゃんに見られます。
先天性疾患は大きく以下の4つに分類されます。
【赤ちゃんの先天異常の原因について】
先天性疾患を知っていくうえで大切なのは、先天性疾患はその人の個性の一面にすぎないということです。
4つに分類された先天性疾患のうち、染色体疾患についてもう少し掘り下げてみましょう。
人間の身体は約60兆個もの細胞から成り立っていますが、その細胞すべてに46本の染色体が含まれています。その染色体の上の決まった部位に遺伝子が乗っており、これは人体の設計図ともいえるものです。
染色体には常染色体と性染色体の2種類があります。2対の常染色体は大きさの順に1番から22番までナンバリングされ、22種類×2対で44本、これに性別を決める性染色体が2本で計46本です。
染色体の数に過不足があると必然的に遺伝子にも異常が生じて、先天性疾患の原因になります。発達や成長に影響が出てくるのです。
これが染色体疾患です。染色体疾患の中で頻度が高いものが21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、13トリソミー(パトー症候群)の3つです。
広義における出生前診断とは、妊娠中に胎児の状態を調べるすべての検査を意味します。しかし、近年では胎児の遺伝的検査、とくにトリソミー検査のことだけが出生前診断と呼ばれている現状があります。でも上のグラフを見ると、胎児の異常のうち遺伝的検査で見つかるものはそれほど多くないということが分かりますね。
出生前診断は胎児に何らかの異常があるか、その可能性が高いかどうかを調べるために、妊婦さんとパートナーが話し合って受けるかどうかを判断するものです。
もちろん、出生前診断を受けて、異常がないことを確認し安心するのが、一番の目的です。出生前診断を受けて異常があると分かった場合には、胎児のことを両親が理解し、状況に応じてさまざまな準備をしたり、出産後にすぐ治療が行なえる施設での分娩を選んだりすることができます。出生前診断をすることで、赤ちゃんの人生、家族の生活について真剣に考えることになることもあります。
出生前診断は決して中絶をするためのものではありません。しかし、出生前診断を受け、赤ちゃんの人生、家族の幸せを真剣に考えた上で中絶を選択するご両親の決断は決して責められるものでもありません。
主に染色体異常についての出生前診断は大きく以下の2つに分類されます。
染色体異常以外の出生前診断は、ほとんど超音波検査によることになります。詳細な超音波検査(胎児ドック)を受けることが勧められます。最近では、小児循環の専門医が心臓を詳しく診てくれる施設や、脳発達を詳しく診る胎児の脳神経超音波などができるところもあります。
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出生前診断にはさまざま種類があり、先天性疾患に関してもわかることとわからないことがあります。ここで出生前診断の内容を1つずつ見ていきましょう。
超音波検査は妊娠の確定や予定日の決定に欠かせないものであり、一般的な妊婦健診でも胎児の体重や羊水の計測などに頻繁に用いられ、最近では助産師外来などでも超音波で胎児が元気かどうかを確認する施設もあります。
しかし、妊婦健診での超音波検査は通常、詳しく赤ちゃんの異常がないかを見る超音波検査ではありません。胎児の先天性疾患がないかを見るためには、詳しい超音波検査(胎児ドック)などを受けることが勧められますが、施設により超音波の器械も違い、項目も異なります。
妊娠11~13週の超音波検査で胎児の後頭部浮腫(首の後ろのむくみ:NT)の厚みを計測することで、染色体疾患の可能性を評価することが可能です。ただし、NTはこの時期の胎児には必ずみられるもので、NTがあるからといって異常であるとは限りません。
NTが厚ければ異常の可能性が高くなると言われていますが、NTが厚くても正常な胎児もたくさんいますし、その逆もまたしかりです。超音波検査でNTが厚いことに加えて鼻骨が見えにくかったり、心臓に近い静脈管に逆流がみられたりする場合は、染色体疾患の可能性が高くなります。NTを正確に計測するのはかなり難しく、イギリスの胎児医学財団のNT資格を持っている医師や検査技師はきちんとNTを計測できます。
詳細な超音波検査によるダウン症候群の検出率は70~80%程度だと考えられています。
妊娠18〜20週ごろの中期の超音波検査では胎児も200~300gと大きくなってきて、顔や心臓、手足や脳なども詳しく見えてくるようになります。この時期の詳しい超音波検査(胎児ドック)では形態の異常が見つかる可能性もかなり増えてきます。
しかし、胎児は成長していきますし、妊娠後半になってから形の異常がわかるようになることもあります。
母体の年齢に、NTの厚みと母体の血液中の2つの成分値を組み合わせて解析することで、胎児がダウン症候群、18トリソミー、13トリソミーである確率を割り出す非確定検査です。検出率は約90%と言われていますが、もちろん偽陽性や偽陰性もあります。
妊娠11~13週末で検査を希望する妊婦さんが対象になりますが、検査の実施が可能な医療施設は限られています。
母体の血液中の3つ(トリプルマーカー)あるいは4つ(クワトロテスト)の成分値を測定し、胎児がダウン症候群や18トリソミー、二分脊椎症である確率を割り出す非確定検査です。検査結果は基準となる確率(35歳での確率)よりも高ければ陽性、低ければ陰性と報告され、その後の羊水検査や詳しい超音波検査の必要性を検討する判断材料になります。
海外では11~13週でのコンバインド検査が主流となり、トリプルマーカー・クワトロテストを受ける妊婦さんは少なくなっていますが、日本ではまだこれらの検査をしている施設が多くあります。
母体血清マーカーによる対象疾患の検出率は、ダウン症候群が約87%、18トリソミーが約77%、二分脊椎症などの開放性神経管奇形が約83%とされます。ただ、この検査は40歳前後の方が検査を受けた場合、どうしてもダウン症や18トリソミーの数値が高く出やすくなってしまうため、母体の年齢が結果に大きく影響すると考えられています。
二分脊椎症は背中から脊髄神経が外に出てしまっている病気ですが、診断が難しいこともあり、二分脊椎症の確率が高いと出た妊婦さんは精密な神経超音波検査を受けることが勧められます。
母体の血液中を流れているDNAの断片を解析する検査です。母体の血液中には胎盤から流入するDNAが含まれており、それを調べることで胎児の先天性疾患のうち染色体疾患の有無を判断します。実施可能な医療施設は限られており、原則として検査前後に遺伝カウンセリングを受けなければなりません。
NIPTを行なっている無認可施設の場合は「陽性」「陰性」の結果だけが知らされ、その後どういう検査を受けたほうが良いのか、といったケアやサポートをしてもらえないこともあります。NIPTを受ける場合は、遺伝カウンセリングが義務付けられている認可施設で受けることが勧めらます。
主治医に内緒でNIPTを無認可施設で受けて陽性となり、遺伝カウンセリングを受けられず、一人で悩んでいる方もおられます。もしそうなった場合には、NIPT陽性の方の外来を開いている施設もあり、そこできちんとした遺伝カウンセリングや超音波検査・確定検査を受けることができます。
一人で悩まず、赤ちゃんの命を早合点して決めたりせずに、きちんと向き合える施設の門を叩いてください。
妊娠11~14週の時期に、胎盤の一部である絨毛を採取して分析し、胎児の染色体疾患や遺伝性疾患の有無を調べる検査です。羊水検査に比べて早期に結果がわかること、採取できる胎児の細胞が多いので検査に適していることがメリットです。ただし手技は難しく、実施できる医療施設は限られます。
胎盤に限局したモザイクが検出されると、結局は追加の羊水検査が必要になります。また流産のリスクは羊水検査よりは低いですが、0.2%程度あると言われています。
染色体の微細な欠失や重複で重症な先天疾患がある場合もあります。微細な欠失や重複などはマイクロアレイという方法で診断することができますが、マイクロアレイを行なっている施設は限られており、またマイクロアレイをする条件を満たす必要があり両親の血液からのDNAを一緒に調べることが求められます。またもっと細かい遺伝子疾患の診断を目的として、重症疾患の遺伝子の変異などを調べる場合もありますが、これも限られた施設のみでの対応です。
妊娠16週以降に羊水を採取して、そこに含まれる胎児由来の細胞を培養して分析することで、染色体疾患の有無を調べる確定検査です。
羊水検査ではまず超音波検査で胎児の位置を確認し、母体のお腹に長い注射針を刺して羊水を採取します。通常は一回穿刺で採取できますが、採取途中に胎児が動いたり、子宮が収縮したりして羊水採取が難しくなると再度穿刺しないといけなくなる可能性があります。
羊水穿刺はわずかとはいえ流産をきたす可能性もあり、絶対に安全といえる検査ではありません。また、胎児の細胞がうまく培養できなかったりすることで診断不能となる場合もまれにあります。
羊水検査は、染色体疾患の中でも染色体数の異常やある程度の染色体構造異常は正確に診断できますが、染色体モザイク(正常細胞と染色体異常細胞が混在している状態)の場合などは、状況により判断が難しい場合もあります。
微細な欠失や重複で重症な先天疾患がある場合もあります。微細な欠失や重複などはマイクロアレイという方法で診断することができますが、マイクロアレイを行なっている施設は限られているのが現状です。
またマイクロアレイをする条件を満たす必要があり、両親の血液からのDNAを一緒に調べることが求められます。もっと細かい遺伝子疾患の診断を目的として、重症疾患の遺伝子の変異などを調べる場合もありますが、これも限られた施設のみでの対応です。
分娩・不妊治療・婦人科治療は扱わず、胎児診断を専門とする施設として2006年に開院。絨毛検査13,414件・羊水検査2,098件と、専門施設として実績豊富(2009年~2019年累計)。大学病院から紹介があるほど医療関係者から信頼が厚く、全国から妊婦さんが集まります。
所在地:大阪府大阪市天王寺区上本町7-1-24松下ビル3F/問い合わせ:06-6775-8111
※開院年度・実績については同院HP参照
出生前診断はダウン症のみの診断を意味するものではありません。出生前診断の第一の目的は「赤ちゃんが元気で健康かどうか」を診断して「安心して笑顔の妊娠生活を送る妊婦さんを応援する」ことです。
そのためには、ダウン症などにかたよらない、赤ちゃんの先天異常すべてを考慮しながら赤ちゃんの診断をする必要があります。
出生前診断により赤ちゃんに病気があることが分かった時には、診断された病気について正確に理解し、どのように対応できるのか、治療法があるのか、親としてどう向き合えばいいのかを相談する必要があります。お腹にできたかわいい赤ちゃんの人生、きょうだい家族の人生を真剣に考えなければならないのです。
私は20年以上、数えきれないほど多くの家族と向き合い、一緒に考える出生前診断の仕事をしてきました。真剣に赤ちゃんや家族のことを考えるママやパパから学ぶことが今でも多くあります。
出生前診断とは「病気を診断」することがゴールではなく、診断したところがスタート地点で、そこからいかに一緒にご両親と考えていくかということで、決してなまやさしいものではありません。でも全国に、きちんと診断し、一緒に考えてくれる医師、看護師、助産師、カウンセラーがいます。きちんと施設を選んで出生前診断を受けましょう。後で「あのときこうしていたら・・・」と後悔することがないように。
夫 律子(ぷぅ りつこ)
クリフム出生前診断クリニック 院長(日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医/日本超音波医学会認定超音波専門医/日本人類遺伝学会・日本遺伝カウンセリング学会認定 臨床遺伝専門医ほか)
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