更新日:|登録日:
更新日:|登録日:
出生前診断の結果が完全ではない原因として、染色体のモザイクが挙げられます。このモザイクによって、胎児は正常なのに検査結果では染色体異常があるとされてしまう場合があります。ここでは染色体のモザイクについて説明します。
身体を構成する細胞の中でも、染色体の数がそれぞれ異なっている状態をモザイクといいます。たとえばダウン症候群のモザイクであれば、21トリソミーを持つ細胞と持たない細胞が一定の割合で混在している状態です。
通常であれば細胞はすべて同じ数の染色体を持っています。人間であれば常染色体44本と性染色体2本の計46本となります。染色体数の異常であれば46本にならず、もしダウン症であれば21番染色体が3本存在するので47本となるわけです。
染色体の数に異常があったとしても、細胞が分裂するときには同じ2つの細胞に分かれ、染色体の数は通常は変化しません。そのため、正常な人も染色体異常の人も身体の細胞の染色体は同じ数であるのが一般的です。
しかし、中には異常な数の染色体をもつ細胞と正常な数の染色体をもつ細胞が混在する「モザイク」という場合があるのです。
モザイクは大きく胎児性のモザイクと胎盤性のモザイクに分けられます。その原因を説明しましょう。
モザイクの原因の1つとして、細胞分裂の際に常染色体の分裂がうまくいかなったことが挙げられます。
もともとは正常な精子と卵子が受精し、体細胞分裂の際に常染色体分離の異常が起きて染色体が1本多いトリソミーの細胞と1本足りないモノソミーの細胞が発生します。モノソミーの細胞は選択的に淘汰されるので、結果として46本の染色体を持つ細胞と47本の細胞が混在するモザイクになるのです。
母体が卵子をつくる際に減数分裂が起きますが、染色体が2つの細胞に分かれることができず、性細胞の中に2本の染色体を持ったまま受精することで染色体異常をきたします。受精すると父親が由来の染色体と併せて3本になります。
3本の染色体は、細胞分裂を繰り返していく中で余剰な染色体を排除しようとする「トリソミーレスキュー」という現象を起こします。
胎盤性モザイクとは、胎児には染色体異常がなくても胎盤だけにモザイクが発生することを指します。この場合、胎児は正常ということになります。出生前診断のひとつであるNIPTで解析されるDNAは、主に胎盤由来の細胞からのDNAなので、胎盤性モザイクの場合には、実際の胎児が正常であるのに、NIPT結果が「陽性」となることがあり、これがいわゆるNIPT偽陽性の大きな原因のひとつです。
NIPTが陽性と出ても胎盤性モザイクであれば、胎児は正常で元気で生まれてきます。NIPT陽性の場合に確定診断としての羊水検査が必要なことが、これで理解できるはずです。
【胎盤性モザイクについて】
分娩・不妊治療・婦人科治療は扱わず、胎児診断を専門とする施設として2006年に開院。絨毛検査13,414件・羊水検査2,098件と、専門施設として実績豊富(2009年~2019年累計)。大学病院から紹介があるほど医療関係者から信頼が厚く、全国から妊婦さんが集まります。
所在地:大阪府大阪市天王寺区上本町7-1-24松下ビル3F/問い合わせ:06-6775-8111
※開院年度・実績については同院HP参照
異常染色体の細胞と正常染色体の細胞が混在する「モザイク」の場合、モザイクのパーセンテージが羊水検査などで出ます。
とても少ないモザイクの場合には、低頻度モザイクでなんの症状もなく、低い頻度の異常染色体の細胞がじきに消失してしまうこともあります。また、モザイクのパーセンテージは胎児の体のいろいろな部分により様々です。
例えば、血液と皮膚と尿で調べると同じ胎児のものでもまったく違ったパーセンテージが出ることも多いのです。さらに、羊水検査で「培養(細胞を増殖させる)」をして出たGバンド結果は、培養の過程の間に、モザイクのどちらかの細胞が極端に増えた結果である可能性もあるため、培養をさせない羊水、つまり未培養の羊水細胞でFISH検査という方法で検査をする方が実際の羊水中のモザイク率が出ることになります。
「モザイク」が疑われる患者さんはとても悩まれます。まずは詳しい超音波検査で胎児をしっかり観察して異常がないかを見ること、さらに出た染色体結果については、専門家の遺伝カウンセリングを受け、場合によっては再検査をするかどうかについて検討することもおすすめいたします。
夫 律子(ぷぅ りつこ)
クリフム出生前診断クリニック 院長(日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医/日本超音波医学会認定超音波専門医/日本人類遺伝学会・日本遺伝カウンセリング学会認定 臨床遺伝専門医ほか)
監修者情報≫