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こちらでは先天性疾患の1つである「22q11.2欠失症候群」についてまとめています。
22q11.2欠失症候群とは胸腺低形成症候群とも呼ばれ、生まれつき胸腺が正常に機能しないという先天性の免疫不全疾患の一種です。心臓や副甲状腺、顔面の形成などに異常がみられます。
かつてディジョージ症候群や類似する疾患と報告されていた例の多くに22q11.2欠失が認められ、現在では一括して「22q11.2欠失症候群」と呼ばれるようになりました。多くは突然変異で起こりますが、親から遺伝する場合もまれにあります。22q11.2というのは22番染色体の長腕(q)の11番地の2という染色体地図上の場所を表しています。
胸腺が機能しないとリンパ球が少なくなり、結果としてウイルスや細菌など感染症に対する免疫力が低くなります。副甲状腺も正常に機能しないため血中のカルシウム量も低く、筋肉のけいれんや心不全をきたす場合もあります。
22q11.2欠失症候群の予後を大きく左右するのが心臓の症状の重症度です。とくにファロー四徴症や大動脈弓離断をともなうことが多く認められ、チアノーゼ(血中酸素が低下して唇や爪が紫色になること)をはじめ呼吸促迫や体重増加不良、哺乳困難といった心不全の症状がみられる場合があります。
右室から肺動脈への通り道がどのくらい狭いかによってチアノーゼの程度も変わりますが、22q11.2欠失症候群のおおむね1/3は生後1カ月以内に、次の1/3は満1歳を迎える前に、残りの1/3はそれ以降に出現します。
初めは泣いた後や運動時にチアノーゼがみられますが、歩行できるようになると時おり息が切れて座り込むような姿勢を取ります。時間帯としてはぐっすり寝たあとや午前中に症状が出ることが多いのですが、悪化すると常にみられるようになります。
典型的なのは急に不機嫌になってチアノーゼと呼吸困難が強くなるパターンで、重症化すると意識を消失したり全身のけいれんを起こしたりする場合も。チアノーゼが出現して半年以上経過すると、手足の指先が太鼓のばちのように丸く変形する症状が出てきます。
手術しなければチアノーゼはどんどん悪化し、少し運動しただけでも息が切れるので日常生活に大きな支障をきたすようになります。現在では乳児期のうちに短絡手術もしくは心内修復術を行なうことが多いので、手術を受けないまま学童期まで成長することは少なくなっているようです。
心臓の症状が重症化しやすいだけにもっとも目立ちますが、このほかにも22q11.2欠失症候群の症状はさまざまです。例を挙げると低身長や血小板減少、汎血球減少、斜視、大脳皮質の異常や脳梁、小脳の低形成、白内障、尖足、側弯症、腎臓の奇形、鎖肛などがあり、これらを合併する可能性は高いと考えられます。
また、精神発達遅延や学習障害は学童期の前から目立つようになる場合が多いとされています。
生まれてからの22q11.2欠失症候群の診断はFISH法という染色体検査で22番染色体の微細欠失が確認されると、22q11.2欠失症候群と診断されます。この一方で、血液検査で血液細胞全体とT細胞・B細胞の数を計測し、副甲状腺の機能についても検査します。
この一方で、FISH法という染色体検査で22番染色体の微細欠失が確認されると、22q11.2欠失症候群と診断されます。
先天性心疾患や下顎低形成などをともなうことがあるため、超音波検査で兆候を知ることはできる可能性があります。染色体の異常となるので絨毛検査や羊水検査で診断できると思う人は多いでしょう。ただ、22q11.2欠失症候群は通常の絨毛検査や羊水検査では診断できません。
またNIPTでは通常ダウン症などのトリソミーのみを検出するので、22q11.2欠失症候群は対象外です。未認可施設ではNIPTに22q11.2欠失症候群が入っているところもありますが、その陽性的中率は定かではなく、もしそのNIPTで22q11.2欠失症候群陽性と出てもその後には確定診断の問題が出てきます。一般的に実施されている染色体検査では22q11.2欠失症候群は診断できません。
22q11.2欠失を特殊に診断するFISH法を依頼するか、マイクロアレイという方法でないと診断はできません。それらの方法が依頼できるかどうかは施設によります。
臨床遺伝専門医か遺伝カウンセラーが在籍する医療施設で相談することをおすすめします。
新型出生前診断(NIPT)でスクリーニングされる対象疾患は13トリソミー、18トリソミー、21トリソミーの3種類でしたが、近年はアメリカで複数の染色体微細欠失症候群と16トリソミー、22トリソミーも追加されました。ここで解説している22q11.2欠失症候群も含まれています。
日本でも今後NIPTの対象疾患として追加されるかどうか議論されることになるかもしれませんが、臨床の場で大きな混乱が起きる可能性もあり、しばらくは対象疾患とはならないと考えられています。
22q11.2欠失症候群の治療は困難で成功率も低くなってしまいますが、胸腺移植などを行なうと免疫力が高まる例もみられています。また、カルシウムを補給することで筋肉の硬直やけいれんの防止が期待できます。しかし心不全を起こすようになると手術が必要であり、その症状にはもっとも注意しなければなりません。
いずれにしても新生児期から個々の症状に合わせた治療計画を立案し、生涯にわたって治療や生活指導を続ける必要があります。
22q11.2欠失症候群の治療は心臓手術が基本です。手術によってチアノーゼの原因である低酸素状態を改善するためには2つの手術法があり、1つが鎖骨下動脈と肺動脈をつなぐブラロック―タウシッヒ短絡手術で、もう1つが心室中隔欠損を塞いで狭くなっている右室流出路を拡大する心内修復術です。
ブラロック―タウシッヒ短絡手術は、新生児や乳児早期でまだ身体が小さい時期や、肺動脈が細く左室が小さいため心内修復術が難しい場合に選択されます。
ファロー四徴症の心内修復術は通常生後6カ月から満2歳までの間に行なわれることが多くなります。
チアノーゼ発作や運動制限を改善するため通常は乳児期のうちに手術が行なわれます。手術を受ければ、手術後の状態にもよりますが日常生活に支障をきたさない程度には回復が見込めます。ただ、激しいスポーツや運動は変わらず制限されるでしょう。
成長とともに肺動脈便閉鎖不全が進行すると、運動時の息切れがみられるようになって右室機能低下や三尖弁閉鎖不全を起こし、心不全の状態に陥ります。こうなると肺動脈弁置換手術が必要です。また、肺動脈閉鎖に対する手術を行なった場合は、右室から肺動脈への導管狭窄が進行する場合があり、カテーテル治療による拡大や導管を交換する手術が必要になることもあります。
精神発達遅延をともなう場合は、いずれ学校生活や就職などに際して社会支援が求められます。職業訓練などについても学校や行政機関と相談・連携して支援を続けていく必要があるでしょう。
22q11.2欠失症候群の患者さんが日常生活を送るにあたっては、手術前と手術後の症状や状態によって注意すべきことも変わってきます。激しいスポーツは避けなければなりません。運動の際には準備運動をしっかり行ない、運動中もきちんと水分補給を心がけることが重要です。
心臓手術は人工物を挿入するため、抜歯や出血をともなう歯科治療や外科的な治療には感染性心内膜炎のリスクがあります。感染予防には十分に注意しなければなりません。
分娩・不妊治療・婦人科治療は扱わず、胎児診断を専門とする施設として2006年に開院。絨毛検査13,414件・羊水検査2,098件と、専門施設として実績豊富(2009年~2019年累計)。大学病院から紹介があるほど医療関係者から信頼が厚く、全国から妊婦さんが集まります。
所在地:大阪府大阪市天王寺区上本町7-1-24松下ビル3F/問い合わせ:06-6775-8111
※開院年度・実績については同院HP参照
22q11.2欠失症候群は通常の妊婦健診や、高齢妊娠だからと通常の羊水検査を受けられただけでは見つかることはほとんどありません。
わたしの施設では22q11.2欠失症候群が出生前診断で見つかるケースがありますが、多くは胎児ドックで心臓の構造や下顎の小ささから疑うことがきっかけとなります。症状も個人差がありますが、ご両親はきちんとこの病気と向き合う覚悟が必要になります。赤ちゃんの生まれてからの治療、赤ちゃんの人生、きょうだい家族の生活を真剣に考えていくことになりますね。
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夫 律子(ぷぅ りつこ)
クリフム出生前診断クリニック 院長(日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医/日本超音波医学会認定超音波専門医/日本人類遺伝学会・日本遺伝カウンセリング学会認定 臨床遺伝専門医ほか)
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