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千代豪昭先生は、クリフム出生前診断クリニックの副院長です。遺伝子カウンセリングを担当します。日本における人類遺伝学の権威であり、遺伝カウンセラーを資格化した功労者。やわらかな物腰と的確なアドバイスで患者さんを最良の選択に導く、独自のカウンセリング理論について語っていただきました。
―千代豪昭先生が出生前診断に携わることとなったきっかけをお聞きかせください。
私は遺伝に関する研究を40年以上行ってきました。我が国における臨床遺伝学に関しても非常に早い段階から関わっておりますが、出生前の胎児診断については、まだ日本は先進国の中では立ち遅れている感が否めません。
ドイツのキール大学に在籍していた当時、妊娠や出産に関する日本のシステムはグローバルスタンダードに照らすと異質だなと感じていました。ドイツを含むヨーロッパでは、すべての妊婦さんが当たり前のこととして出生前に胎児診断を受けます。
それはなぜかというと、国が無料で行っているからです。公的な医療制度なので、経済格差による不公平がありません。そしてもし異常が見つかった際には専門のカウンセリングを受け、産むことを選択した場合は手厚い福祉が用意されています。
実をいうと、私はずっと胎児診断には個人的に反対の立場を取ってきました。と言っても決して胎児健診を否定するものではなく、それ自体はとても素晴らしいものです。
しかし、現在日本の公的なサポートは妊婦健診のみで、胎児の診断は自費で行うしかありません。胎児健診がビジネスとしてひとり歩きし、選別のための手段になってしまうのではないかという恐れがありました。
そんなとき、出会ったのがクリフム出生前診断クリニックの院長である夫律子先生です。彼女が普通の医師ならきっと一緒にやっていません。
夫先生は「赤ちゃんを診ないなら、検査をしない」と言い切る人で、選別のためでなく生まれた後にどう対応できるかを考えて胎児診断を行っています。話をしているうち、胎児を人間として見ていることが伝わってきて「この人なら」と思ったのです。
―出生前診断における遺伝カウンセラーという仕事について詳しく教えて頂きたいです。
現在私は、クリフムで絨毛検査や羊水検査など遺伝子検査の後に行う、遺伝カウンセリングを担当しております。「遺伝カウンセリング」とは、一般には聞きなれない言葉かもしれません。
日本人類遺伝学会と日本遺伝カウンセリング学会が共同認定する「認定遺伝カウンセラーⓇ(通称:遺伝カウンセラー)」という資格があり、その資格者が行うカウンセリングのことをいいます。
これは私たちが2005年に日本で初めて制定した資格で、お茶の水女子大学に遺伝カウンセリング講座を開設し、初代教授としてカウンセラー養成を始めました。アメリカでは1969年に世界初の遺伝カウンセラー養成を開始していますので、実に40年近くも遅れているわけです。
それでも現在は全国で17の大学院に養成課程が開設され、資格を取得した約400人が様々な医療現場で活躍するまでになりました。
出生前にカウンセリングを受けるのは、欧米ではごく普通のことです。担当医師とは違う、独立した立ち位置にある専門職に相談することは、患者さんの精神面で大きな助けになります。
特に、胎児に異常が見つかったご家族は思いつめてしまいますので、カウンセラーが心に寄り添いながらお話を聞くことで、考えが整理されるメリットがあります。
―担当医師と別に相談できる機会があるのは、たしかに大切なことですね。具体的には何をお話しすれば良いでしょうか。
例えば「子どもが障害を持って生まれてきたら、自分たちが死んだ後はどうなるんだろう」と絶望するご両親は非常に多いです。しかし「国には公的な支援があるので悲観しなくて大丈夫です」とお伝えすると、ようやく前向きな選択肢が見えてくるようになります。
まずは、どんなことでも構いません。思っておられること、不安なことを、すべてカウンセラーにぶつけてみてください。そこがカウンセリングのスタートです。
遺伝カウンセリングをする上で最も大切なものは、「受け入れる気持」であると私は考えます。診療内容を理解してもらうためのインフォームドコンセントとは根本が全く異なり、患者さんのおっしゃることを受け入れ、共感し、遺伝学の知識や社会保障の情報を提示することで、患者さんの前に道を開き、一歩を踏み出す手助けをすることが役割です。
よく「同じことを繰り返しお話して大変ですね」と言われるのですが、そんな風に思ったことは一度もありません。すべてのご家族に違った背景があり、お考えも状況も様々です。
カウンセリングに理論はあってもマニュアルは存在しません。お話を進めながら、患者さんと一緒に作り上げていくものだと思っています。
―クリフムでの遺伝カウンセリングの様子をお聞かせください。
クリフムに参画した当初は、週2回くらいの診療予定だったのですが、今はすべての診療日に出勤しています。こんなに仕事をするのは人生初めてかもしれません。
それほど、クリフムの患者さんは胎児から得られるエビデンスが多彩で、カウンセリングも変化に富んでいます。長年構築した理論を立証する場として、そして研究者として、私も赤ちゃんや患者さんから教えていただく毎日です。
日本ではまだ、胎児診断に抵抗を感じる方がいらっしゃるかもしれません。しかし生まれる前の対応によって、将来その子どもが社会的に対応できるかどうかに影響します。
迷っておられる方は、まず病院に行く前に遺伝カウンセラーとお話をしてみてはいかがでしょう。ワンクッション置くことで、不安が払拭されることは多いものです。
もちろん、すべての方がスムーズにお話が進むわけではありません。中には診断結果を受け入れられず、心が折れてしまう方もおられます。
以前、いくつもの薬局で睡眠薬を買い集め、自殺しようとしたお母さんがいらっしゃいました。知らせを聞いてご自宅に駆けつけたのですが、整った玄関へ立ち入った瞬間に私は希望を持ちました。私が訪問することを聞いて家を片付けて下さったのならば、まだお母さんの気持ちは持ちなおせると思ったのです。
それから長期にわたるカウンセリングが始まりました。「不安なときは、いつでも連絡してください」とお伝えし、2カ月の間に40回以上お電話でお話をしました。昼間だけでなく夜に及ぶこともありましたが、ようやく心が落ち着いてご自身で結論を導き出せるまでに回復されました。その後お母さんは、福祉に関わるお仕事をされているそうですよ。
遺伝の問題は赤ちゃんやご両親だけでなく、血縁の親族にまで広がる根深いものです。それだけにクリフムで行う詳細な胎児診断、そして結果が出た後の遺伝カウンセリングは、患者さんにとっては心強いサポートになります。
私は今でも、胎児診断や遺伝カウンセリングは「本来は国がやるべき」と思っています。出産年齢が上がっている昨今、ますます必要になってゆくでしょう。
ゆくゆくすべての方に公的なシステムとして広がって、安心して赤ちゃんを迎えられるようになれば理想的ですね。
臨床遺伝学の世界では、重鎮といわれる千代豪昭先生。全国でも高名な権威でありながら、とても気さくで優しいとクリフム出生前診断クリニックの患者さんからも厚い信頼を得ています。
出生前診断を受ける前は、どんな結果が出るのだろうかと不安な気持ちがどなたにもあるでしょう。千代豪昭先生にお話しを伺えば、出生前診断は結果を聞くだけの検査ではないことが明白です。
クリフム出生前診断クリニックの出生前診断は、千代豪昭先生の遺伝カウンセリングをはじめ、夫婦の気持ちを受け止めて整理することまで含めて1つの検査としてサポートしてくれているのだと分かりました。
分娩・不妊治療・婦人科治療は扱わず、胎児診断を専門とする施設として2006年に開院。絨毛検査13,414件・羊水検査2,098件と、専門施設として実績豊富(2009年~2019年累計)。大学病院から紹介があるほど医療関係者から信頼が厚く、全国から妊婦さんが集まります。
所在地:大阪府大阪市天王寺区上本町7-1-24松下ビル3F/問い合わせ:06-6775-8111
※開院年度・実績については同院HP参照
副院長・千代豪昭先生
クリフム出生前診断クリニックの副院長。大阪大学医学部を卒業後、神奈川こども医療センター遺伝染色体科において臨床遺伝医のトレーニングを受けた。兵庫医科大学遺伝学講座(助教授)、金沢医科大学(人類遺伝学研究所臨床部門主任兼人類遺伝学講座主任助教授)、西独キール大学小児病院細胞遺伝部(フンボルト留学)、大阪府環境保健部を経て、1994年より新設された大阪府立看護大学(教授、医学概論・公衆衛生学・生命科学・生命倫理学担当)に勤務。2004年にお茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科ライフサイエンス専攻特設遺伝カウンセリングコース(修士・博士課程)を開設し初代教授に就き、遺伝カウンセラー制度の礎を築いた。
【資格】臨床遺伝専門医制度委員会 臨床遺伝専門医・指導医【所属学会】日本人類遺伝学会名誉会員・日本遺伝カウンセリング学会、日本小児遺伝学会、認定遺伝カウンセラー制度委員会委員長